司役:谷山紀章×林役:加瀬康之 『pet』すれ違う「ヤマ親」と「ペット」の想い直撃インタビュー

2020/02/18

【すれ違う「ヤマ親」と「ペット」の想い】

 
 
 
2020年1月より放送がスタートしたアニメ『pet』(原作・三宅乱丈『ペット リマスター・エディション』(ビームコミックス/KADOKAWA刊))が、第7話までの放送を終え、ヒロキ・司・悟・林らの真の人間関係や中国マフィア組織「会社」の思惑など、物語の全容が明らかになってきた。そうした状況のなか、物語後半に向けてのキーパーソンとなるのが司と悟の「ヤマ親」である林。「ペット」と呼ばれる記憶操作能力者にとって、自身の大切な思いを分け与え人間らしい感情を与えてくれた「ヤマ親」は、家族以上の深い思慕を抱く人物。それでありながら戦うことになった司と林―…。

そんな司役・谷山紀章と、林役・加瀬康之の対談が実現。役どころへの思い、また今後の物語の注目点について、じっくりと語っていただいた。

 

 

――先日、ついに第7話が放送されました。司と林の関係が判明したわけですが、キャラクターを演じるにあたり心掛けたことはありますか?

 

加瀬康之 林はセリフの数自体はそれほど多くはないキャラクターですが、物語のキーになる人物だと思っています。司、悟、桂木それぞれと対峙するときの演じ方については考えを巡らせましたが、あまりにも考えすぎると芝居の味付けのバランスが悪くなってしまうので、僕の思った形で演じるように心がけました。

 

谷山紀章 バランスや匙加減は難しいところですよね。僕も司を演じるにあたってはそこを意識しました。彼はこの物語においても運命に翻弄されるとても可愛そうな人物。なので、見ていられないと感じることもありました。司はヒロキといるときはヤマ親として、悟には林を巡っての嫉妬、そして林に対しては愛憎を交えた感情がいりまじっています。そのあたり、二重三重の構造はしっかりと気持ちを作ってアフレコに臨む必要がありました。僕自身、原作の大ファンでもあったので、なぜ司がそうなってしまったのかを順序立てて考え、理解して演じていきました。
 
 

――司の感情構造について、特にヒロキと林に対しての気持ちの部分が大きいと思いますが。

 

谷山 林はヤマ親という存在ですから、強い絆で繋がっていますが、憎しみが生まれた時はその分色濃く出てしまいます。つまり最も強い愛憎を持っていると言えます。一方、ヒロキに対しては、今度は自分がヤマ親の立場に立って、「本当は林さんにこう接してもらいたかった」ということを行なっているのだと思います。だからヒロキには異常に優しいし、司は司でヒロキに依存している部分があるという構造です。その意味でとても悲しい男ですね。

 
 
 

――一方加瀬さん演じる林は、司と再会した時、優しい言葉をかけませんでしたが、過去と現在で感情の変化はあったと思いますか?

 

加瀬 第1話での「マタサのおじちゃん」が、本来の林だと思うんです。「会社」の意向で司を、そして今度は悟まで取り上げられてしまった。まるで実際の子供を取り上げられてしまった親のようで、林は相当辛かったと思います。だから演じるときのベースとなるのは第1話の彼になります。現在の林はこうなりたくてなったのではなく、精一杯踏みとどまっているという状態。それが壊れると、自我もなくなってしまうでしょうね。その上で、司や悟のために「会社」を潰そうと頑張って、その挙げ句に司に潰されてしまった。

 

谷山 悲しすぎますよね。

 

加瀬 でも、林としては知らない人に潰されるくらいなら、司の手にかかったほうが良かったんじゃないかなと思う。でも、悟のことは気がかりだったろうな。
 
 

――本作では大森監督が音響監督もされておりますが、演出指導で印象的だったことはありますか?

 

谷山 直接、演出していただけるので分かりやすかったですね。大森貴弘監督も僕と同じく原作の大ファンで、このアニメ化を待望されていたそうなんです。そうした思いが乗ったアニメになっていると思います。原作ファン同士、ツーカーで分かる気がしました。

 

加瀬 熱量と愛が非常に強かったですね。要所にこだわりを持った演出をされて、芝居を引き出していただきました。

 

谷山 物語の後半に「悟が邪魔だな」という、ちょっとした台詞があるのですが、この一言は非常にこだわられていました。監督としてはこの一言に司の狂気みたいなものを込めて物理的な怖さを印象づける表現をしたいと。僕ももちろんそのつもりで演じて臨み、何度もテイクを重ねて仕上げていったことが収録の際の印象的な出来事として残っています。

 

加瀬 第5話の車の中での会話シーンの演出も熱量が高かったですね。

 

谷山 あの話数は一緒に演りたかったですねー!

 

加瀬 第4話までは皆で一緒に録れたのですが、以降はスケジュールの都合で3班くらいに分かれてしまったんですよ。

 

谷山 司は頬が赤らんでいて、やっぱりずっと林に会いたかったのだなと。だから感情が昂ぶって、まずは一人でずっと喋り倒している。でも、「会社」からは林を潰せという命令がある。一方で、林にとっての優先事項は悟に会うことだから、司としては「どうして久しぶりに会ったのに僕の話を聞いてくれないの?」という感情になる。林からすると、自分が「会社のために働くんだぞ」と言ったばかりに、それをモチベーションとして働く司が、まるでグレちゃった子供のように見える。これも本当に悲しい空回りです。司は司で、自分の正義を行なっているつもりなんです。ヒロキの前では抑えていますが、司は元々「ペット」だから情緒が不安定で、ヤマ親の前ではその様子が垣間見えるようにと思いながら演じていましたね。
 
 

 

加瀬 僕は林が司に流されず、いかに冷静でいられるかを意識していました。大森監督からは「ちょっとセリフが司に寄っているので、もうちょっとよそよそしくしてほしい」と言われたり。林は一生懸命、平静を装って喋っているので、これ以上よそよそしくすると逆にバレてしまうのではないかと心配で、監督の言わんとしていることわかるけど、そのよそよそしさの匙加減が難しかった。林からしたら、自分の作戦がここで司にバレたらもう全てが水の泡になるから、だから、司が車に乗り込んで来た時は「今じゃないんだよ!」という気持ちでいたと思います。

 

谷山 あのときもしも林が司を無理矢理にでも引っ剥がして車で逃げていたら……。でもそれができないのも林なんですよね。

 
 
 

――原作をご存じない方にとって司が桂木に対して上位の立場にあることが明らかになった第3話の台詞は衝撃だったようです。

 

谷山 あの展開は上手くミスリードできたのではないかと思います。普段、自分の出ている作品のエゴサーチはしないのですが、今回ばかりは検索してみたところ「騙された!」とか「え? 司の方が偉かったの?」といった声を発見したので、役者冥利に尽きますね(笑)。
 
 

――4月15日発売のBlu-ray BOXの特典でお二人は第6話のオーディオコメンタリーに出演されたそうですが、改めてご覧になっての印象はいかがでしたか?

 

加瀬 僕としては第6話の林と司の対決は、やはり第4・5話からの流れがあってのことなので。そこまででなぜ林がいなくなったのか、桂木よりも実は司の方が上だったとか、伝書鳩のこととか「会社」の構図が見えてくるので、4~6話は1セットとして見てほしいですね。

 

谷山 第6話は司のタニの入り口の描写が印象的でした。原作では腐ったポインター(犬)に蛆が湧いていたりと、とにかくグロテスクなのですが、それを大森監督はアニメでもきちんと描いてくれていると思います。ここはヤマとの対比が肝なんです。ヤマはとにかく明るい色を使ってヤマ然として、タニはとにかくダークな色合いでタニ然としている。「俺はもう林さんに会えない、待ってるだけのペット・ポインターなんだ」という恐ろしい話。僕はこの作品のこういうことから逃げない描写が大好きなんですよ。
 
 

――第6話では林と司の戦いが始まってしまいますよね。

 

加瀬 林としては、とにかく「やめろ」と。どうにかして力づくで止めさせるしかないという思いだけだったと思います。

 

谷山 司は林との会話の中で、自分はもう見捨てられたぐらいに思っていたから自暴自棄になっていたんじゃないかな。だから林さんと一緒に潰れるなら本望ぐらいの狂気の覚悟だっただろうし、一方で「僕の水もここまで進化したんだよ。すごいでしょ」と林に成長を見せたいという複雑な色々な気持ちが入り混じっていた。そういう愛の形もあるのだと、潰すことのみを目的としての心持ちで演じていた気がします。そこは司になったつもりで想像するしかないのですが、本当に難しい場面でした。
 
 
 
 

――また、本作はキャスト陣の中国語も話題と聞きますが。

 

加瀬 こんなに中国語が多いとは思ってもいなくて(笑)。だって、オーディションの時に一言も言われなくて、受かって顔合わせをしたときにドサッと資料を渡されて「こちらを本日お持ち帰りいただいて」、「えっ、こんなに勉強しなくちゃいけないの!?」と(笑)。

 

谷山 僕は原作ファンなので中国語が出てくるとは知っていましたけど、その箇所は日本語で演じるのかなと思っていたんです。原作ファンの僕としては「そうこなくっちゃ!」と(笑)。制作側の本気を見た思いでした。

 

加瀬 第7話以降、林はほぼ中国語のセリフしかありませんでしたよ(笑)。収録後に一人残されて中国語演出の先生とマンツーマンになるので、相当鍛えられましたね。ネイティブが聞いても遜色ないレベルまでさせられるんです。「えー、言えてるよ」、「ダメです、もう1回」みたいな(笑)。まず中国語を覚えるだけでも大変なのに、実際の画面上では絵に合わせてきちんとニュアンスを出して芝居をする。間の息だけ普段の芝居だったりして難しかったな。いやー、大変な収録でした(笑)。

 

谷山 僕も加瀬さんほどではありませんが、第6話以降で毎回中国語を喋るシーンは憂鬱でしたね(笑)。あと、特殊な例として、歌を録る時みたいに、セリフの途中までを1テイク目で、2行目以降は3テイク目といった切り貼りをすることがありました。

 

加瀬 中国語演出の方が音響制作スタッフに「2行目の最後だけ前テイクで聞かせてもらえます?」とお願いしたあと、「あっ!これ! こっちのテイクにします」って言って。僕らにはその違いがよくわからないんだけど(笑)。

 

谷山 後年、『pet』の収録を思い出すときに懐かしむのは絶対にこの中国語指導ですよ(笑)。
 
 

――いよいよクライマックスを迎えるわけですが、第8話以降の見どころについて教えていただけますか?

 

加瀬 「会社」の話が出てきて、けっこう大人の話になっていくんですよね。

 

谷山 外資系マフィアにスポットが当たって、どういう一族がいてその能力者的な存在が「会社」のコマになっているかが分かっていきます。林の回想が中心的な話になりますね。その中で、今までのお話でぼんやりとしか描かれていなかったものの輪郭がハッキリしてきます。司はヒロキによって蘇ったために、更なる苦悩に苛まされ、救いがない物語が展開していきます。

 

加瀬 ここに悟が色々と絡んでくるからね。

 

谷山 悟は司にとって憎しみの対象でしかなく、ヒロキと自分だけがいればいい。あることについて信じ込んでしまって突き進むけれども、それは本質からズレていたと聞かされて、「そんなバカな!」と整合性がつかなくなって、「自分が間違っていたはずがない」という誤った認識で正解を塗り潰してしまう。そんな運命に司は振り回されていきます。
 
 

 

 

――作品に掛けて、ご自身のヤマ=大切な気持ちや思い出を分けるとしたら、誰にどのような思いを分けてあげたいですか?

 

谷山 もし将来の伴侶になる人が現れたら、その人に差し上げたいな(笑)。自分の嬉しい・楽しい気持ちを一緒に見たり味わったりするという意味で言うと、ライブやイベントなど目の前で応援してくれるファンの皆さんに分けてあげたいですね。

 

加瀬 僕の場合はやっぱり家族かな。でも家族だったら、ヤマをあげるのではなく、一緒にヤマを作っていきたいね。「ヤマをあげる」ってなかなか難しいと思うよ。う~ん、それこそ林のように心が壊れて犯罪に手を染めそうな人にあげたいかな。

 

 

――最後に『pet』をご覧になっている方へメッセージをお願いします。

 

加瀬 第7話までのお話で、かなり引きずり込まれていると思いますが、第8話からさらに本質に突っ込んでいく話になります。タニのドロドロにハマりながら、『pet』の世界にどっぷりと入り込んで観て下さい。

 

谷山 第7話まで観てくれた方は、きっと最後まで観てくれるんじゃないかな。『pet』のような世界観やサスペンスがさらに加速していく作品は、最後まで見届けて頂くのが一番だと思います。そして最終話まで見届けた時にはきっと、スゴい作品に出会ったという感想を抱くに違いないでしょう。

 

加瀬 よく分からなかった部分は見返すといいんじゃないかな。

 

谷山 そうですね! 何回でも観てほしいし、ぜひお友達にも勧めていただきたいと思います。

 

 

――ありがとうございました。今後の展開からますます目が離せませんね。