【百鬼丸役:鈴木拡樹×どろろ役:鈴木梨央】最終回放送前スペシャル対談

2019/06/21

舞台を中心に活躍し、舞台『どろろ』にも主演した百鬼丸役の鈴木拡樹さんと、女優としてブレイクし、多数のドラマに出演しているどろろ役の鈴木梨央さん。共に、テレビシリーズのアニメの仕事は『どろろ』が初めてだったというお二人に、お話をうかがった。

 
−−あらためて、この作品のお話が来た時のことを振り返って、どんなお気持ちでしたか?
 


拡樹 僕はテレビシリーズのアニメは初めてでしたし、声のお仕事自体の経験が少なかったので、楽しみではありましたけれど、とても緊張していました。でも実写映画の『どろろ』は観ていて印象深い作品でしたから、どうしてもやりたいなと、緊張より、そっちの気持ちのほうが強かったです。
 


梨央 手塚治虫さんの描かれた大作の新しいアニメ版に、どろろ役で出られると知って、すごくワクワクしました。しっかり最後まで演じきれたらいいな、というドキドキ感も。テレビシリーズのアニメって、毎週収録があるんですよね。だから毎週、声優さんに囲まれてアフレコをして、そのたびにドキドキしていました。
 


−−アフレコ現場はどんな様子でしたか?

梨央 スタジオにマイクが4本あって、その中でみんなで入れ替わりながら収録するんですけど、最初はそれだけで新鮮でした。毎週毎週顔を合わせているから、だんだん仲も深まってきて、琵琶丸役の佐々木(睦)さんをはじめ皆さんにアドバイスを頂いていました。どう演じたらいいかわからないなあって時に「こういう風にしたらいいよ」って教えてくださるんです。本当に毎回勉強させてもらうことばかりでした。

拡樹 そうなんですよね。マイクが4本あって……。でも、実は僕は別録りのことが多くて、見てる景色が違うんです。もちろん同じ場所でアフレコしていて、マイクも4本あったんですけど、使うのは1本という。

梨央 百鬼丸は最初は話せなかったこともあったんですよね。でも話しだしてからもなかなかご一緒できなかったので、鈴木さんがいらっしゃったときは「やっと来た!」って感じでした。

拡樹 ごめんなさい、と思いながら…。

梨央 とんでもないです(笑)。

拡樹 最初に皆さんとご一緒できたのは、百鬼丸が喋りはじめたばかりの頃で、まだ二言三言しかセリフがなかったんです。でも「次の収録では皆さんと一緒だよ」と教えていただいて、やっと会えるとホッとした反面、めちゃくちゃ緊張しました。

−−役作りはどんなふうにされましたか?

拡樹 今回のアニメ版の百鬼丸は、原作と違って、感情も言葉にしない人形のような存在で、そこからキャッチコピーの「鬼か、人か。」というところまで変わっていかないといけない。人に近づいていっているようで、危うく鬼に堕ちるんじゃないかという部分もあって、自分でも演じていて苦しかったです。

−−特に苦しかったのはどんなところでしょうか?

拡樹 僕は百鬼丸を演じているから、誰よりも百鬼丸の味方でありたいと思うのですが、自分のために人を殺してしまうのはやはり行き過ぎているなあ…と思います。だからそれは心苦しかった。人間らしいってどういうことなのかなあと考えさせられました。楽しかったりきれいだったりするものだけが人間じゃないよね、鬼のように思える部分も人っぽいのかなと、自問自答の日々でした。

−−どろろはいかがでしたか?

梨央 どろろは最初は強がっていて、悲しかったりすることを決して表に出さずにいて、でも百鬼丸と出会って、許しあって、ちょっと甘えたりするようにもなって。そういうところは本当にかわいくて、優しくて甘えん坊なんだなあと思っています。だから喜怒哀楽を意識して収録しました。声の種類や言い回しに気をつけて、たくさんあるセリフをどろろの気持ちをのせて言えるように心がけました。

−−苦労された点は?

梨央 1話目を収録した時は試行錯誤しました。地声より低く出そうかなと考えながらアフレコに臨んで、現場で音響監督さんから「もっとキャピキャピした感じにして」とかいろんな指示を頂きながら、何度も録り直しました。最初は元気を意識して、だんだん収録を重ねているうちに落ち着いてきました。

拡樹 僕がご一緒した時にはスラスラとアフレコされてました。

梨央 いやー(笑)。どろろはずーっと喋ってるので、明るくしてたのに急に泣いたりとか、そういう感情の変化が声で伝わるように演じるのが大変でした。
 

 

拡樹 僕も何度も録り直しています。特に中盤あたりはとても繊細だったので、「人に戻り過ぎ」「普通に人っぽく喋っちゃったね」ってよく注意されました。

−−声の演技とテレビや舞台での演技とで、どんな違いを感じましたか?

拡樹 僕にとっては触れたことのない世界だったので、どうやったら画面の中で生きられるのかなとずっと考えていました。例えば画面の中の距離感をどう感じて伝えるのか。井戸の底から上に向かって喋っている時の声の出し方は、隣にいる人と話している時とは違うので、そういうことを考えながら演じないといけない。やはり奥が深いなあと思いました。

梨央 わかります。遠くに向かって声を出さないといけない場面でも、マイクが目の前にあるので、どうしても距離が近くなっちゃうんですよね。それと映像を見て、その表情に合わせてお芝居をするのがとても難しかったです。あ、それともう一つ、台本にセリフとして「息を飲む」って書いてあるんですよ。これまでドラマで意識して息を飲んだことがなかったので、どうやったらいいんだろうと思って。

拡樹 どうやったの?

梨央 声優さんたちに教えていただいたんですが、ちょっと「う」みたいな感じで声を出すと息を飲んでいるように見えるらしいです。

拡樹 なるほど、勉強になりました。

梨央 よかったです(笑)。

−−一番難しかったのはどこですか?

拡樹 百鬼丸が体を取り戻す場面です。戻ってくるパーツによって痛みや衝撃が違うんですけど、どんな感じなのか難しくて、叫びすぎて「もうちょっと耐えよう」って言われたりしました。背骨辺りなんて、もう想像がつかない。激痛で声が出ないのかな? 嗚咽みたいな感じかな? だって自分の体が失われる芝居はすることがあるかもしれないけど、戻ってくる芝居ってほかの作品では考えられないですよね。だから大変でしたけど、楽しかったです。『どろろ』の醍醐味ですよね。
 

 

梨央 私は最初のセリフが、全部ひっくるめて一番難しかったと思います。商売の口上を述べているすごく長いセリフで、何度も練習して行ったんですけど…。一本調子になってはいけないし、どろろの感情のに合わせて言わないといけないし、最初のセリフのドキドキもあって、今でもあのセリフは鮮明に覚えています。

−−そんな経験を経て、実際にオンエアを観た時はどんなお気持ちに?

梨央 アフレコ現場ではセリフに集中していて見えなかったことが、オンエアを観ると見えてくるんですよ。あらためて全体を広く観れた感じでした。だから視聴者目線で、『どろろ』の独特の世界観の面白さや、百鬼丸の戦いの迫力に感動していました。

拡樹 僕は衝撃を受けました。第一話を観て、自分はまだ声を当ててないんですけど、細かい描写にすごく感動しました。百鬼丸は喋らないので、動きのみで表現するんですよね。瞬き一つで伝わってくる。日本のアニメーションってすごいんだなあって思いました。百鬼丸が喋るようになってからは、応援する感じで観てました(笑)。

−−応援ですか?

拡樹 「噛むなよ」とか。自分を応援してました(笑)。もう録り終わってるので噛まないんですけど、それだけ怖かったんです、最初は。

−−百鬼丸がアニメで喋りはじめて少しした頃、舞台『どろろ』も上演されましたね。

拡樹 舞台をやって、自分の芝居に何か変化があるかなと思ったんですけど、びっくりするほど変わらなかった。アニメの途中で舞台が始まったので、どっちかがどっちかに引っ張られてしまうんじゃないかと心配していたんです。でもアニメはアニメ、舞台は舞台でちゃんと分けて演じられたんだと思います。とはいえ、不思議な感じはありましたね。アニメのほうが先に始まったのに、舞台のほうで先に結末が描かれてしまう。途中で追い越した感があるんですよね。それと、これはアニメと舞台で全然違うところなんですけど、僕が現場で実際にやっている内容が、アフレコでは微動だにしないけど、舞台では3時間ずっと動いていました(笑)。

梨央 3時間はほんとすごいです!

−−アニメの結末は舞台の結末と同じなのでしょうか。

拡樹 そこはお楽しみで(笑)。

−−ではネタバレにならない範囲で『どろろ』の物語について教えてください。最初に台本を読んだ時のご感想は?

拡樹 未完の名作をアニメでは完結させますと聞いて、楽しみにしていました。

梨央 私もです。毎回台本を頂くのが楽しみで、ずっとワクワクしていました。

−−単純に、百鬼丸が正義で、醍醐景光が悪という話ではないですよね。

拡樹 そうですね。原作に比べてアニメ版はより深く人間ドラマが描かれている気がします。でも原作の醍醐景光の圧倒的に自分の欲のままに生きている感じも好きなんですよ。アニメの景光は、国のため、民のために我が子を犠牲にする領主で、その気持ちを汲み取るのはやはり現代社会では難しいんですけど、あの時代で考えると、そういう正義もあったんだろうなあとも思うんですよね。

梨央 私はやっぱり許せない、かなあ。難しいですけど…親から見放された百鬼丸のことを思うと。でも百鬼丸と景光さんが、ちょっと打ち解けてほしいなあって思いもあります。百鬼丸と多宝丸の関係も、もうちょっと(よかった頃に)戻せたらいいなって。それはたぶん、どろろの目線なんですけど。

拡樹 難しいですよね。百鬼丸が景光と打ち解けたら、その場合の解決方法ってなんだろう。百鬼丸が(体を取り戻すことを)あきらめればいいのか、景光が百鬼丸を信じて、体をすべて取り戻した後に一緒に頑張ろうって言うのか。それくらいしかないと思うんですけど、それはどっちを選んでもつらい。

−−景光と違って、望んだわけでもないのにそういう状況に立たされてしまった多宝丸もつらいと思うのですが、もしご自分が多宝丸だったら、どちらを選択しますか? 国か、兄か。

拡樹 彼は責任感が強いからどっちかを選んだんですよね。選ばないという選択肢もあるのに。

梨央 逃げる?

拡樹 そういう選択もありますよね。

梨央 国か兄弟か…。うーん、自分だったら、兄弟を選びます。

拡樹 僕もそうですね。姉がいるんですが、目に見えてわかる存在が不幸になっている姿は見たくないです。だからやっぱり身内を選んでしまうんじゃないかなあ。

−−お二人のお互いの印象を教えてください。

拡樹 実は僕も気になってました。この間までの印象って「初日におなかが鳴った人」だったと思うんですけど(笑)、今日の対談を経て、少しは変えられたかなあって。

−−初日におなかが?

拡樹 収録中におなかが鳴っちゃいまして(笑)。なんでああいうタイミングで鳴ってしまったのか、反省しています。

梨央 そんなこともありました(笑)。最初に収録でご一緒させていただいた時は、緊張されていたのか、すごく無口で静かな印象だったんです。でもイベントの時にすごく場を盛り上げてくださって、ムードメーカーでとても気さくな方で、「全然違う?」って驚きました。
 

 

拡樹 最初にアフレコでご一緒した時は緊張してました。皆さん、はじめましてでしたし、自分がまったく知らない世界で、どういうことをするのかな全然わからなくて、すごく集中してました。なんでみんな列になって椅子に座ってるんだろうとか、そういうことも不思議で、喋っていい空気なのかもわからなくて。

−−そこから半年、もう最終回のアフレコも終えられていますね。最終回はどんな雰囲気でしたか?

梨央 それが不思議なくらいいつも通りでした。最終回という感覚はなくて。

拡樹 実感なかった?

梨央 はい。自分の中に終わってほしくないって気持ちがあるからかなあ。まだ先があるような感覚でした。

拡樹 実は僕もなんです。自分が最後のセリフを言い終わった後、モニターを眺めていて、演じ終えたというより、物語とキャラクターたちの成長を見届ける側に回っていたような気がします。

−−最後に最終回、注目のシーンを教えてください。

梨央 どろろと百鬼丸が人のために何ができるか。人として生きていく上で大切なことは何か。そういうことが凝縮されて、二人を通して伝えるアニメになっていると思います。それと、生まれてすぐに親から見放された百鬼丸に、どろろがどう関わっていくのかというところも、ラストに向けて見逃せない展開だと思うので、最後までどろろと百鬼丸を見て楽しんでいただけたらうれしいです。

拡樹 最後に百鬼丸がどういう結論にたどり着いたか、それがこの物語のテーマで、未来のあるお話です。どろろに出会うことで導きだした、百鬼丸の答えを楽しみにしていてください。